病気になりにくい体をつくる(予防医療効果を得る)
 
 八卦掌は、意識と身体に生じる滞りを感じ取る能力を高める訓練です。
(※具体的な練習内容は別の「練習内容」のページをご参照ください)
 
思考の滞りは、呼吸の滞りを呼びます。
呼吸の滞りは、筋肉を硬直させ全身を流れる気血を滞らせます。
これらの滞りは様々な病気の原因となります。
 
 八卦掌では今までに意識したことのない方法で身体を動かす練習を行います。
 
当然、最初は戸惑い動作はぎこちなくなります。
重要なのは、ゆっくり身体を動かす中で、
身体のどの部位がぎこちなく動作が滞っているのか焦らずじっくりと感じ取ることです。
感じ取ることができたら、それを取り除く工夫を行う。
 
 こうした経験を積み重ねるうちに、練習をしていない日常生活の中でも、
身体の反応から異常を察知し、滞りを軽減させることができるようになります。
結果として病気になりにくい体を得られます。
 
 
八卦掌の予防医療としての効果についてもう少し説明を続けます。
 
 
ここまで八卦掌の効用について、主に格闘術と養生(健康)の二つの観点から効用を説明してきました。
 
中国武術を学ぶ方の中には、格闘術と養生を分けて捉える人もいます。
 
この方法を学べば格闘技術は向上するが健康になるとは限らない、
あるいは、この方法を学べば養生効果は高いが格闘が強くはならない、という考えです。
 
 色々な意見があってしかるべきだと思いますが、私は経験上分けて考えていません。
私が指導する八卦掌の練習でも二つを分けて行うわけではありません。
もちろん、タイガーバームのように能書きは多いがどれも効き目がいまいち、
なんていう曖昧なものでは困ります(笑)。
ですが事実、八卦掌の達人も、合気道の達人も長寿の方が多いのです。
 
 格闘技術と養生、相反する要素のようで足し算で考えると難しいですが、
発想の転換で引き算すると、答えが1つにまとまります。
 
 人の機能を1つ引き算すると、両方手にすることができます。
人が他の動物から飛躍的に発達した機能を引き算します。
 
その機能を得たことで人は天敵がなくなり、
計画的に食料を得ることができるようになり、
結果として個体数が短期間で爆発的に増大しました。
 
その機能を得たのと引き換えに弱まった能力があります。
それは野生の能力(動物としての生命力)です。
 
 野生の動物が持っている優れた能力の1つは、
天敵からの危機回避と捕食に必要な非常に高い運動能力です。
動物は人のようにスポーツや武術を専門に学び汗を流したわけではありませんし、
設備の整ったジムで部分的な筋力を機械トレーニングをしたわけではありません。
  
もうひとつは、環境適応能力や自然治癒能力です。
動物は人のように薬を常備していませんし、衣類や保温の道具を作れませんので、
基本的に自分の身一つで体調調整と天候の変化に対応しなければなりません。
  
野生の強さを取り戻すというと何だか下等なような野蛮なような
感覚を受ける方もあるかもしれませんが、
難しい仏典を勉強し、禅の修業を積んだり瞑想を行う高僧も、
結局たどり着いたのはここだったのだと想像します。
野生とは言い換えれば、自然の摂理でしょう。
理性は自分の中で生じる野性的な衝動を抑制するのが仕事ですから、
そもそも、理性をもって野性の力を探求しようとする行為は矛盾を孕み、
目の前の答えを見えなくさせるような難しさがあります。
理性をサーチライトのような光に喩えるならば、日向で影を探すようなもの、
と言えば分かりやすいでしょうか。
 
 
またここで、人がリラックスする時に行うことを思い出してみてください。
 
・美味しいものを食べる、お酒を飲む(味覚)
・アロマテラピーを受ける(嗅覚)
・お笑い番組を見る(感情)
・マッサージをしてもらう(触覚)
・お風呂に入る(触角)
・睡眠をとる
・のんびりと旅行に出かける
 
いずれも、どの動物にも備わる原始脳の部分を刺激する行為、
もしくは、理性の働きを弱める効果をもつ行為です。
ですが、人がリラックスするために得たこれらの知恵を
野性的で野蛮だと言う人はいないでしょう。
 
安全で良質な食品を食べることが体にも心にも良いように、
私は、適度で良質な運動は体と心が喜ぶものだと認識しています。
 
野性的で良質な運動とは、全身を連動させた動作です。
人以外の動物は四本足で歩行するため、
(裏返すと)基本的に全身を連動させない運動ができません。
 
一方、人は二足歩行に慣れ、下半身と上半身の運動を
分断してコントロールできるようになり、その上で、
両手と指先の微細な動作が可能となりました。
後はご存知の通り、指先と視覚を通しての情報処理、意識、道具、大脳、
これらの要素が相互に影響しながら雪だるま式に発達をとげました。
 
私は逆説的に、全身を連動させて動こうとすることは、
人が得た理性的な脳の働きを休め、生命維持に関わる原始的な機能を
活性化させるのだろうと推測しています。
全身が連動した動きであれば、ゆっくりでもいいし、
息が切れるような激しい運動を行う必要もありません。
こうした運動は見た目には、野生や野蛮というイメージとは程遠いですね。
しかし、その効果と出力は確かなものだと私は実感しています。
 
そもそも、中国武術の祖と称される少林寺の開祖はインド人の達磨大師だ
という説があります。禅を中国に伝え、瞑想に明け暮れる傍ら、
健康を手に入れるための強健術と武術を編み出したとされます。
瞑想、ヨガ、仏教、禅、養生、武術と今では別々に存在するものが一緒くたに
現れているような様相ですが、根本は同じと考えるのが自然ではないでしょうか。
 
以上が、私の経験上から述べる八卦掌の予防医療としての効果の説明です。
 
 
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